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通好みのコラム「日本の防災行政発展の歴史」

日本も40数年前までは、年間数千人の自然災害による死者が出ていた事実をご存じですか?日本の近年の防災行政の進展は、今日までの災害による犠牲の苦い経験の上に成り立っています。インドネシアの防災関係者から良く聞かれる「日本の防災行政の歴史」について、この場を借りて、お話ししたいと思います(Fig4 日本の自然災害被害者の推移)。

Fig4 日本の自然災害被害者の推移

第一の転換点-伊勢湾台風と災害対策基本法-
59年9月、伊勢湾台風が名古屋を中心とした地域を直撃、死者・行方不明者5,098名、さらに戦後復興を遂げつつあった中京工業地帯に深刻な打撃をもたらしました。それまでも自然災害による犠牲者は、45年以降、毎年のように1,000人規模でありましたが、伊勢湾台風の被害は突出して大きく、かつ名古屋を中心とする広範囲を高潮と暴風で壊滅させたため、その惨状は日本を震撼させました。

この災害を契機に、従来の防災体制の不備が指摘され、61年、総合的かつ計画的な防災体制の整備を図るための災害対策基本法(防災に関する責任の所在の明確化、国および地方を通ずる防災体制の確立、防災の計画化、災害予防対策の強化など)が制定されました。この法律には、防災対策を進める上で、画期的な特徴が3つ含まれていました。

  1. 内閣総理大臣を長として、全閣僚および防災に関係の深い半公的機関(現在は、日本赤十字社、日本銀行、日本放送協会、日本電信電話株式会社(当時))を構成員とする中央防災会議という、国レベルでの防災行政の最高調整組織を設置しました。また、電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で内閣総理大臣が指定する法人を指定公共機関とし、防災への責務を明確化しました。これにより、「防災」の重要性が幅広い関係者に認識されるとともに、責任を明確化することで、官民共同での緊密に連携した災害対策が可能となった。


  2. 政府による毎年度の防災に関する計画および防災に関してとった措置の概況の国会への報告が義務付けられました。これにより、災害が少ない年であっても「防災」が国家の重要課題として必ず国会で審議される仕組みが構築され、結果的には、防災関係予算の安定的な確保につながりました。


  3. 国、都道府県、市町村、指定公共機関、住民等、それぞれについて防災上の責務を定め、それを担保する手段の一つとして、それぞれの当事者による防災に関する計画策定を義務付けられました。これにより、60年に関東大震災(23年死者・行方不明者14万2800人)発生日に因んで制定された「防災の日」(9月1日: 日本では、内閣総理大臣の指揮の下、総合防災訓練を例年実施)とも相まって、国民も含めた各組織・個人の防災意識が飛躍的に向上しました。

第二の転換点-阪神・淡路大震災-
95年1月、阪神・淡路地域がマグニチュード7.3の直下地震に襲われ、6,437名の犠牲者が出る大惨事となりました。地震により、神戸市役所の6階がつぶれるなど、災害対策の陣頭指揮を執るべき人員・施設に甚大な被害が発生したため、災害時に真っ先に機能すべき警察や消防の初動が遅れました。61年制定の災害対策基本法では、災害対応は、まずは市町村が担い、市町村の能力を超える場合には都道府県がこれにあたり、さらに大災害の場合には、都道府県知事の要請に基づいて国が動くというボトムアップの災害対応を基本としていたため、災害対策中枢機能が集中する都市部に壊滅的なダメージを与える災害には、対処しきれませんでした。

この反省を受け、95年12月、著しく異常かつ激甚な災害の場合には、災害緊急事態の布告がなくても、内閣総理大臣を本部長とする緊急災害対策本部を設置することができる、緊急災害対策本部長が指定行政機関の長等に指示することができる、地方公共団体の相互応援に関する協定の締結に関する事項の実施に努めなければならない等の災害対策基本法の改正が行われました。

また、犠牲者の約8割が建物倒壊等により、また、そのほとんどが地震発生から15分以内に死亡していた事実が判明してからは、「地震による犠牲者を減らすには、建物の耐震化が必要」という「災害を予め防ぐ・軽減する」=「災害予防・軽減」の重要性が再認識され、現在も、一般家屋や公共施設の耐震補強などの対策を急務で行っています。

さらに、01年、中央省庁再編を機に、それまで中央防災会議の事務局を司っていた国土庁防災局を内閣府に移行し、防災担当大臣が常に内閣府に置かれ、いつ災害が起きても対応できるとともに、災害が起こっていない時にも、たゆまざる防災への取り組みを実施する体制を整えてきました。



日本は、毎年、数多くの台風が上陸し、また、数多くの地震が発生します。特に、首都直下地震、東海地震、東南海・南海地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震いずれもが、いつ発生してもおかしくないといわれており、これに対してどれだけ事前の準備ができるか、我が国は、現在、「巨大災害までの時間との競争」を行っています。台風や地震などの自然災害は、人間の力では発生を防ぐことができません。だからこそ、自然災害が発生した時に、如何にその被害を減らせるかが、人類のチャレンジとなります。

今後、地球温暖化の影響により、自然の猛威は、より一層過酷なものとなります。インドネシア政府も、日本政府同様、災害を事前に防ぐ・被害を軽減する防災予算を、「消費(Expenditures)」と捉えることなく「投資(investments)」と捉え、引き続き、自国民を自然災害からしっかり守っていってほしいと願っています。

(文責: 室永 武司)


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