
インドネシアが新型コロナウイルスワクチンの接種を進める中、マグダレン・ペラモニアは東部の島アンボンのコミュニティに厳密な温度管理が可能な運搬型冷蔵庫によりワクチンを運搬し続けている。彼女の仕事の中心は、ワクチンの有効性を確保するSMILEと呼ばれるデジタル追跡システムである。このデジタルツールのおかげで、多くの医療従事者はワクチンの検証やストックの確認作業に数時間かけていたのを数分に短縮できるようになった。
36歳の医療従事者であるマグダレンは、2億7400万人のインドネシア人に対するヘルスケアの提供の有効性を改善してきたデジタルトランスフォーメーションの最前線にいる。しかし、インドネシアの保健部門のデジタル化は十分なのだろうか。
日本政府の資金援助とUNDPとの連携により、インドネシア保健省は今週、保健部門のデジタル化に関するブループリントを発表した。このブループリントは、インドネシアが集団免疫を得られるレベルまでコロナワクチンの接種を進める中で作成された。また、このブループリントは、SDGsの課題の一つである保健サービス強化の緊急性がインドネシアで高まっていることを反映している。
これらのデジタル保健の介入は、疾病負荷への対処や治療の質の改善、母子保健の改善、インドネシアの保健制度全体の変革支援といった、インドネシアの保健部門の優先事項に沿っている。究極的には、このブループリントは、患者が医療へのアクセスを求め、医療従事者がより良いサービスを提供し、保健システムの管理者がその責任を遂行するのに役立つであろう。
同時に、このブループリントは過去の同様の教訓を十分に反映して作成されている。すなわち、そのような戦略は別のデジタルアプリを開発するのではなく、これらの情報技術ソリューションは強力な政治的コミットメントで推進される政策と運用強化に向けたビジョンに基づいている場合に限り効果的であるということである。
例えば、保健関連の課題に取り組む際に政府が健全な決定ができるよう、住民情報に関する真に統合的・包括的なシステムを創設する必要がある。あるいは、ブループリントの記載のとおり、現在、国民年金と医療に関する情報を蓄積するために、様々な省庁が異なるプラットフォームを使用している。さらに、保健サービスや作業プロセスの質を改善するための保健データと情報の利用可能性と質を向上させるという根本的なニーズがある。データや情報の精度を向上させれば、政府が現在と将来のパンデミックに対処する能力を著しく向上させることができる。
もう一つ重要なことは、保健部門のデータのより強化された透明性に沿って患者に関するデジタル情報を守ることが可能となるより強力な規制枠組みである。したがって、保健部門のデジタル化には、政策や組織的対応の強化、政府・州レベル双方での十分な人材が必要である。
デジタル連結性の拡大のためには、民間部門の更なる関与が必要となる。保健省によると、民間部門は医療投資のわずか2パーセントしか占めておらず、これは民間部門にとって大きな機会があることを示している。この目的のために、保健部門への公的資金調達やインパクト投資の拡大を含めた他の革新的なSDGs資金調達スキームを活用できるかもしれない。政府はデジタル連結性向上の改良のために25億ドルの予算を措置したが、革新的資金調達スキームは、マルチステークホルダー、特に民間部門との協力強化により、資金ギャップの懸け橋になり得る。
デジタル基盤の改良は、インドネシアのデジタル・デバイドに取り組むことにもなる。世界銀行によると、インドネシア人口の約53パーセントがインターネットへのアクセスを有する。約47パーセントの「オフグリッド」人口は、遠隔地の周縁化されたコミュニティや低開発地域の女性や子供を含む貧困で脆弱な都市部の家庭などである。彼らは皆、質の高い保健サービスを最も必要としている。登録や医薬品の検証のような行政手続きがデジタル化するにつれて、デジタルへのアクセスのない人たちは、直接的な保健サービスが受けられないリスクにさらされている。
イノベーションは成功のための原動力である。したがって、継続的なイノベーションはデジタル保健国家戦略を実行に移すために重要なもう一つの要素である。科学技術を重視する国として、日本は継続的にデジタルノウハウを革新するための新たな手法を探し続けている。日本では、官民で保健医療分野のデジタルサービスを促進し続けてきた。例えば、日本は高解像度カメラやセンサーを用いることで医療を発展させてきた。そして今、より効率的な医療サービスのために、遠隔治療に関する研究開発が進んでいる。さらに、モバイル端末の保健アプリを利用する人の数が近年増加している。デジタル技術により日本の医療環境は変化してきている。
保健医療部門のデジタルサービスは社会全体のデジタル化に支えられている。日本は、全国民がデジタル技術の恩恵を確実に受けられることを目指している。その第一歩として、日本は政府機関のデジタル化を進め、公共部門の情報システムの統合化を実現する必要がある。そのため、日本政府は2021年9月にデジタル庁を創設した。デジタル庁は、公共サービスの改善と社会のデジタル化という目的のために、デジタル化基本計画の策定、デジタル個人識別システムの開発、オンラインサービスやデジタル基盤の統合・最適化などのデジタル化政策を進めることが期待されている。
このブループリントは、デジタル保健転換をリードするというインドネシア政府の野心のマイルストーンとなるものである。インドネシアの保健デジタル化へ向けて、日本とUNDPはインドネシアと協力していきたい。
アンボンに戻って、医療従事者のマグダレンは15年間保健部門で仕事をしてきた中で、SMILEというデジタルツールを採用した後の急激な変革はこれまで見たことがないと述べた。次のステップは、全国規模で保健サービスを強化するために透明、統合的、かつ包摂的なデジタル保健システムを創設することである。