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日本―インドネシア・イスラム関係の可能性(ムハマディヤとナフダトゥール・ウラマのオンライン・メディア、8月26日)![]() これは、日本政府のプログラムで日本を訪問したイスラム寄宿塾(プラントレン)教師が語った言葉である。勤勉、清潔、謙虚さなどイスラムで大切にされている価値観が日本において実践されていることに驚き、「日本にイスラムと共通する点がある」と感じたのだそうだ。日本を訪問した多くのイスラム指導者が、日本とイスラムには、宗教や国境の壁を超えて共有する価値観があると指摘している。 私は、人と人、国と国との間の深い信頼関係の構築には、文化、歴史、そして宗教への深い敬意と相互理解が必要であり、世界の平和と安定を築く上で、異なる宗教や民族間の対話を深めることは重要な課題であると確信している。世界のイスラム教徒は18億人以上と言われ、また、地域やグローバル課題への対応において日本の重要なパートナーであるインドネシアの人口の9割近くがイスラム教徒であることを考えれば、日本がイスラム世界との交流を一層深めることの重要性は明白である。日本とインドネシアのイスラム社会との関係強化に努めてきた私を含めた日本の関係者にとって、冒頭に紹介したイスラム寄宿塾教師の言葉は、大きな勇気を与えてくれるものである。 日本において依然ムスリムは少数派であるものの、インドネシアを含むイスラム圏出身の一定数の留学生や技能実習生等が暮らし、また彼らとの関係を通して改宗した日本人のムスリムもいるので、ムスリム住民の数は徐々に増加している。新型コロナウイルスのパンデミック以前は、インドネシア人を含む多くのムスリム観光客が日本を訪れており、こうした一時的な滞在者も含めれば、非常に多くのムスリムが日本国内に滞在している。信教の自由を憲法で保障している日本は、他の宗教同様にムスリム住民の権利も尊重している。ムスリム住民・滞在者の増加に伴って、日本国内におけるモスクや礼拝所の数も増加しており、現在では80を超える数のモスクがある。最近では、ナフダトゥール・ウラマの日本支部が茨城県にモスクを開設した。ハラール産業の発展にも官民をあげて努力しており、インドネシア・ウラマー評議会(MUI)やハラール製品保証実施機関(BPJPH)を始めとする海外の機関との協力のもとでハラール認証を取得する日本企業は増加している。こうした中で、日本では、日本食からインドネシア料理に至るまで幅広い料理をムスリムの皆さんに安心して楽しんでいただけるようになっている。日本各地のハラールのラーメン屋や焼き肉料理店は、インドネシアなどからのムスリム観光客に人気のスポットとなっている。今後、一層多くのムスリムが日本を訪問し、相互交流が深まることを期待している。 日本は、インドネシアのイスラム社会との相互理解のため様々な努力も行ってきている。私自身、本年6月にイスラム社会団体NUとムハマディヤを表敬訪問し、サイド・アキル・シロジNU総裁及びハエダル・ナシール・ムハマディヤ総裁と、今後の相互理解深化のために協力を続けていくことを確認したばかりである。日本は、インドネシアの教育や地域社会においてプサントレンが果たしている役割の重要性に注目し、2004年からプサントレン教師の招へいプログラムを実施している。これまで全国34州から164名の教師を招へいしており、毎回およそ10日間をかけて学校、大学、文化施設、産業施設、ホームステイなどで交流を行っている。また、より若い世代のイスラムリーダーたちに日本との架け橋となってもらえるよう、21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYS)のスキームを利用してNUやムハマディヤ、国立イスラム大学等からイスラム青年を日本に招へいするプログラムも実施している。ラマダン月に日本大使の公邸で行う断食明け夕食会は、当地のイスラム指導者や招へいプログラム参加者との交流の場となっている。 冒頭で紹介したとおり、日本への招へい参加者からは、日本社会が尊重する価値観とイスラムとの共通点を発見したという声をきくことが多い。なかでも私が興味深いと感じたのは、「日本の学校では清掃員に頼らず、生徒たち自らが掃除をしていることに驚いた」という声だ。生徒たちの清掃活動は日本では当たり前のものとして行われているが、参加者たちからは、「環境を清潔に保つことの大切さ、自主的に行動することの重要性を学ぶことができる良い取り組み」との評価をいただいた。イスラムには「清潔さは信仰の一部である」という金言があり、日本で学校を訪問した経験を基に、それを実践するため生徒たちによる清掃活動を取り入れたプサントレンも多いと聞く。日本の仏教とイスラムの共通点を発見したとの指摘も興味深い。奈良の東大寺(日本で最も有名な寺院のひとつ)の住職との宗教間対話を行ったイスラム寄宿塾の指導者は、この対話のなかで、仏教とイスラムのあいだには人と人との親愛関係を重視するという共有点があると気づき、現在は親愛関係にもとづいた寛容な社会の実現に向けた取り組みを行っているという。 このように、日本は、インドネシアのイスラム社会との相互理解を深める努力を行う傍ら、インドネシアのイスラム社会の発展にも多くの協力を行ってきた。ランプン州におけるイスラム小学校の整備や、中部ジャワ州チラチャップ県における小学校校舎の増改築、国立イスラム大学ジャカルタ校キャンパスにおける医学部新校舎の建設等への協力は、日本国民のイスラム社会に対する敬意と友情を示すものである。 日本は、グローバルなレベルでもイスラム世界との協力を推し進めている。日本は「イスラム世界との文明間対話」と題する、我が国とイスラム圏各国知識人たちが集うセミナーを開催し、国際的な対話と相互理解の促進に努めてきた。これまでバーレーン、東京、イラン、チュニジア、サウジアラビア、クウェートなどでセミナーが行われ、グローバリゼーション、人類の繁栄と平和、環境問題など、現代社会が抱える諸問題をテーマとして、インドネシアを含めた各国の知識人たちが闊達な議論を行う場となってきた。 中東和平問題については、「二国家解決」を目指して和平に向けた取組やパレスチナの国家建設努力を後押ししてきた。2013年からは、インドネシアとも協力しつつ「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合」(CEAPAD)を立ち上げ、パレスチナの経済開発に資する支援プログラムなどを行っており、最近ではインドネシア農業省と日本のJICAの協力のもとでパレスチナの人材育成セミナーが行われた。また日本は、ラカイン州の避難民への人道支援やアフガニスタンへの開発支援などにも取り組んでいる。イスラム世界の諸問題の解決に向けて、日本とインドネシアは同じビジョンを共有しており、両国の協力はイスラム世界全体の平和と発展に大きく貢献できるものと信じている。 新型コロナウイルスの拡大により、これまで積み重ねてきた交流の多くが停止や延期を余儀なくされているが、私は、日本とインドネシアが協力してこの厳しい状況を乗り越えると共に、日本とインドネシアのイスラム社会との交流と相互理解、友情と協力をさらに深く広くしていくことができると信じている。インドネシアという「窓」を通じて日本がイスラムをより深く理解し、インドネシアと日本がパートナーとして世界の平和と発展にこれまで以上に貢献していく未来に向けて、インドネシアのムスリムの皆様とともに進んでいきたい。 金杉憲治 駐インドネシア大使 >>>その他の寄稿文・挨拶 |