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在インドネシア日本国大使館
Embassy of Japan in Indonesia



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EKB62(その15)小さく無い「良い話」


2018年3月19日



    外国で勤務している時の喜びの一つは、通常であれば触れることの無いような「良い話」を伺う機会が数多くあることです。その一つ一つは、決して「小さな」話ではありません。日本の公共放送であるNHKでは、それぞれの道で努力をしてきた人たちを紹介する「プロフェッショナル 仕事の流儀」や「プロジェクトX」という番組がありますが、ここでお会いする方々は、皆さん、単独でこの番組で紹介されてもおかしくない、素晴らしい仕事をされています(実際、以下で最初にご紹介する笠原先生は、「プロフェッショナル」に登場されたことがあります。)。このコーナーでも、一人一人順番に取り上げさせて頂きたいところですが、今回は、最近お会いしたお二人の方について、お話ししたいと思います。

最後の砦;子供の生体肝移植


    最初は、日本の国立成育医療研究センターの笠原先生の話です。

    インドネシアでは、元々肝炎の罹患率が高く、また、生まれたときから深刻な肝臓機能障害を持つ子供たちも多いのですが、宗教的な背景もあり、脳死による臓器移植が難しいことから、生体肝移植が最後の手立てとなっています。一方、そのような手術を行うには、インドネシアの医療事情は、まだまだ未発展なのが実情です。

    このような中で、生体肝移植の分野では日本でもトップレベルにある笠原先生は、中央ジャカルタの「国立チプト・マングンクスモ病院」のトリ・ヘニング・ラハヤトリ先生からの直接の懇願を受けて、2015年から、ボランティアでインドネシアを訪れ、生体肝移植手術を行うと共に、インドネシアのお医者さんに、技術の伝授を行ってこられました。

    去る2月中旬に、手術を終えられた後のお忙しい中、賀藤・成育研センター院長や、チプト・マングンクスモ病院のインドネシア医師の方々と一緒に、大使館にお出で頂きました。先生によれば、手術の数は、15年に8件、16年に12件、17年に14件と着実に増えて、今回の手術を含めて、37件に達したそうです。そして、ここしばらくは、毎月のようにインドネシアに来訪されていますが、日本でご多忙なスケジュールであることから、結局週末にかけてのご訪問にならざるを得ないと伺いました。

    これからも笠原先生のインドネシアご来訪は続きますが、今後は、笠原先生に学んだインドネシアのお医者さんの方々が、自ら手術を行っていく体制に段々と移行していくことになります。また、そのためには、病院の体制や設備の充実も必要です。そのような分野で、ご支援出来ることがないか、日本政府・大使館としても、真剣に考えたいと思います。


「適正技術」:「最先端」ではなく、「使える」技術を


    続いて、井上APEX代表理事の話です。

    井上さんは、1980年代中頃に初めてインドネシアを訪問されて以来、インドネシアのコミュニティレベルでの下水処理に尽力してこられた方です。インドネシアでは、下水の普及率は未だに2%程度に留まると言われています。当国では、住宅密集地が多く、戸別の処理は難しく、かと言って、大規模集中型の処理施設の建設には高額の費用がかかり現実的ではない中で、コミュニティレベルの下水処理が非常に重要な課題になっています

    2月末に、これからお話しする下水処理システム普及のためのプロジェクトをご支援するNGO連携無償資金協力案件贈与契約署名のために大使館にお出で頂いた井上さんに、お話を伺う機会がありました。下水処理は微生物を使って行うのが通例ですが、日本では、酸素を好む微生物を使います。利点は、処理された水質が良いことですが、そのためには、ブロアーを使って多量の酸素を送り込む必要があるので、電力消費が大きく運転も難しいのが課題です。一方、インドネシアで一般的なシステムは酸素を嫌う微生物を使うもので、電力が不要で運転も容易ですが、処理水質が不十分だという問題があります。その中で井上さんがインドネシアで導入を進めてこられたシステムは、両方のシステムの良いところを取ったものです。簡単に言えば、まず、酸素を嫌う微生物で一定の処理をし、その後、酸素を好む微生物による処理をするのですが、それに必要な酸素の供給を、独自に開発された消費電力も少なく運転も容易な回転円板で行うのです。

    井上さん曰く、「優れた技術であっても、電力不足やコスト高で使えなければ意味がない。重要なことは、それぞれの土地に合わせて、持続可能性のある「適正技術」を紹介することなのです。」これは、その土地に根ざして活動しておられるからこそ言える言葉です。正に、目から鱗が落ちる気持ちでした。

まだまだある「良い話」



    これ以外にも、過去1週間だけでも、たくさんの「良い話」があります。

    3月6日には、今年設立から25周年を迎える「インドネシア東レ科学振興財団」による贈呈式がありました。これは、インドネシア全土の教育・研究機関で優れた活動を行っている方々に研究助成などを行うもので、今回の第24回目の贈呈式では、31名の方々が表彰されました。これまでに助成を受けた方々は、約700人に及びます。


    3月8日には、神田外国語大学が、ジャカルタ市内中心部にあるアトマジャヤ大学内に、日本語などを教える施設である「カンダ・アトマジャヤ・ジャパンセンター」を開設されました。神田外国語大学は、環太平洋地域の語学の教育に力を入れておられ、インドネシア語の教育も極めて充実しています。このセンターは、同大学にとっては、メキシコに次ぐ2つめの海外拠点ですが、国交樹立60周年の開設は素晴らしいことだと思います。

    そして、3月13日には、JICAが3年以上にわたり支援してこられた、「インドネシア・エンジニアリング教育認定機構」の開所式が行われました。インドネシアでは今、エンジニアリング教育が大いに必要とされていますが、この機構は必要な教育水準を確保するために、教育プログラムの質を認定する機関です。今後は、エンジニアリング教育の質を国際的に相互に認め合うために枠組みであるワシントン協定への加盟を目指します。

    これこそ、日本とインドネシアの間の関係の「長さ」と「広さ」と「深さ」を示すものだと思います。関係者の皆様のご努力に、改めて敬意を表します!