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在インドネシア日本国大使館
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EKB62(その17);オランウータンを助ける


2018年5月17日



前回、東カリマンタン訪問をご報告した時に予告した通り、今回は、オランウータンについて書きたいと思います。

オランウータンは絶滅危惧種


    皆さんも、動物園でオランウータンを見られたことがあると思いますが、オランウータンは、カリマンタン島とスマトラ島にだけ生息するヒト科の動物です。チンパンジーやゴリラと共に、自然界に生息する動物のうち、一番人間に近いものの一つとされ、道具をうまく使って果物を食べたり、手で水をすくって飲んだりもします。 寿命は45歳〜50歳程度と、人間に近い。また、子供については、妊娠期間が270日程度で、一回に一人の出産というのは殆んど人間と同じ。出産は、通常6年に一回と少なく、子供は、4歳頃までは、殆んど母親とべったりの生活を送ります。

    このオランウータンは、生息できる自然が破壊されたり、ペットにするためなどに乱獲されたりして、その数は減少の一途をたどっており、絶滅危惧種として、国際的にもインドネシアの国内法でも保護されています。その数は、カリマンタン島では1900年から75%減少し、現在では約54,000頭、スマトラ島では、1900年から90%以上減少し、現在では約6,500頭と言われています。



BOS Foundation


    このオランウータンを保護する活動をしている団体は、インドネシアにもいくつかありますが、その最大のものが、NGOであるBorneo Orangutan Survival (BOS) Foundationです。BOSは、1991年に設立され、今では、400人以上のスタッフを抱えます。ボゴールに本部を持ち、東カリマンタンのSamboja Lestari(以下、サンボジャ)と中部カリマンタンのNyaru Menteng(以下、NM))を中心に、活動を行っています。現在、両方の場所で合わせて700頭以上のオランウータンの保護を行っています。

    今回、私たちは、このBOS立ち上げを主導した一人である、サラギさん(Dr. Bungaran Saragih)のご案内で、サンボジャを訪れる機会を得ました。サラギさんは、メガワティ大統領時代の2001年〜04年に農業大臣を務められた方ですが、裏千家インドネシア支部の名誉会長を務めておられたご縁もあって、お知り合いになりました。以前から是非BOSの施設を訪ねてほしいとお誘いを受けていたので、東カリマンタン公式訪問の機会にお邪魔することにしたのです。サラギさんは、70歳を越えられた現在も精力的に活動しておられ、今回も、ご多忙な中、わざわざ私たちの来訪に合わせて、サンボジャにおいでになり、案内して頂くばかりでなく、BOSのCEOであるマーチンさん(Dr. Martin Sihite)とも引き合わせて頂きました。


一言で「保護」と言いますが・・・



    一言で「保護」と言いますが、今回サンボジャに伺って、それがどれだけ大変なことなのか、少しは分かった気がします。「保護」には、野生の経験があるが行き場を失ったオランウータンを生育できる場所に移動(Translocation)するものと、そのままでは生育できない状態で孤立したオランウータンをリハビリして自然に戻すもの(Rehabilitation)と、2種類あります。サンボジャは、リハビリ中心の施設で、現在約200頭のオランウータンがいますが、これが本当に大変なのです。

    まず、オランウータンの幼児の世話は大変な作業です。前述の通り、オランウータンは、自然でも4年程度は母親にべったりで暮らします。ペット用に捕獲されるオランウータンは幼児が中心です。オランウータンの母親は母性本能が本当に強く、子供を引き離されそうになると必死で抵抗し、引き離されると死んでしまうそうです。密猟者も、幼児を捕獲する時は、まず母親を殺す、という悲しい話を聞きました。そのような幼児を保護した場合は、自然に戻すまでに、通常7年程は母親代わりの人間が24時間付き添い面倒を見るそうです。

    そして、「保護」のためには、包括的なプロセスが必要です。保護されたオランウータンは、まず、肉体ばかりでなく精神面も含めたメディカルチェックを受けます。病気のオランウータンはそのまま自然に戻すわけにはいかず、治療が必要です。そして、このメディカルチェックは、サンボジャに居る間、定期的に続くのです。

    中でも、何らかの理由で人間の病気に感染してしまったオランウータンは、自然に戻すことが出来ません。彼らのうち幸運なものは、サンボジャ内にある人口の島で暮らすことが出来ますが、広さが限られているため、残りは、成人を含めて、檻の中で暮らすことになります。今回、そのような檻も見ましたが、スタッフの言う通り、そのような「未来への希望」が無い成人の目は、生まれたての幼児の目に比べて、光を失っていました。

    自然に戻すのも一大作業。人間と同じくらいの体重があるオラウータンを、遠く離れた道路も整備されていない密林の中に返すのですから。それに使う頑丈な檻も見せて頂きましたが、私には数センチ持ち上げるのがやっとでした。これを、資金手当てがある場合にはヘリコプターで、通常は、トラックで長時間ドライブの後、最後は人の手で運ぶのです。

    そして、これが終わりではありません。究極目的はオランウータンの数の増大です。そのために、森に返したオランウータンのその後を一頭ずつモニターするのです。でも、このような地道な努力の結果、これまでBOSが森に返したオランウータンの数は2016年までの時点で253頭、内19頭は亡くなりましたが、その一方で、7頭の子供の誕生が確認されています。


「オランウータンを助ける人」を助ける!


    今回サンボジャに伺い、オランウータン保護に情熱を燃やしている方々にお会いし、本当に頭が下がる思いがしました。そして、微力ながらご支援できればと思い、このブログに書かせて頂きました。

    インドネシア政府からの支援は、正直、限られています。サラギさん曰く、インドネシアでは、オランウータンの保護よりは、「人間」の貧困が未だ政府の最大の優先事項なのです。従って、BOSも、海外の個人や団体、そして、インドネシアを含む企業からの支援を働きかけています。

    BOSのHP www.orangutan.or.id には、個人・団体用の大小さまざまの支援のプログラムが掲載されています。中には、幼児の「里親」になるプログラムもあります。

    サンボジャは2,000haに及ぶ密林ですが、実は、これは2000年代前半の火事で裸山になったところをBOSが段々と買い取り、植林した結果再生したものです。企業の中には、日本のNECのように、その植林を支援しているものもあります。また、これだけ大きなオペレーションなので、資金もさることながら、現物の支援も大歓迎の由です。園内を走り回る車のタイヤを供与しているブリヂストンの活動や、シャープの小型太陽光発電機設置の支援には、大変感謝されていました。なお、これからは、四輪駆動車を支援してくれる会社を探すとのことでした。

    なお、今回私たちは、サンボジャ内にある唯一の宿泊施設「サンボジャ・ロッジ」に宿泊しましたが、この宿泊料の大宗も、保護活動に使われています。ちなみに、サンボジャは東カリマンタンの空の玄関口であるバリクパパンから約40kmのところにありますが、幹線道路から保護区の入り口までの道路は舗装されていないので、ロッジまでの移動については、ロッジと相談されることをお勧めします(HP: www.sambojalodge.com )。森の真ん中で、オランウータンの鳴き声を聞きながら日の出を見る、というのは、私たちにとっては、得難い経験でした。関心のある方は、是非お考え下さい。