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海洋のごとく広がる可能性(コンパス紙、10月26日)![]() 海洋の重要性は、多岐にわたるが、特に二点を指摘したい。 第一に、海洋は、我々の生活や文明を豊かにする。海洋は、地球の水資源の97%を占め、水産資源、医薬品の材料となる遺伝資源を提供する潜在性を有している。また、世界の水産物供給量の3割を供給し、世界のマングローブ面積の約2割が存在する、豊かな海を有しているのがインドネシアである。 第二に、海洋は、人やモノを隔てるものではなく、結びつけるものである。伝統的に、海洋は万人に開放され、海に囲まれたインドネシアを含め、各国の産業は、海上移動・貿易、水産業を通じて発展してきた。インドネシアの海域で水産業に従事する国民やインドネシアで生産された自動車が海上輸送により輸出される様子を思い浮かべて欲しい。 では、なぜ、両国は、海洋分野で協力する必要があるのか。それは、両国民が海洋の重要性について価値観を共有し、共通の利益を見いだしているからである。インドネシアと日本ほど、海洋からの恩恵を享受し、そのために協力してきた国はない。 水産分野では、両国が約40年間にわたって協力したジャカルタ漁港は、インドネシア最大の漁港として約300社が操業し、約5万人の雇用を生み出している。また、水産業が持続可能であるためには、その保全・活用への取組が不可欠である。両国の専門家が水産物養殖、マングローブ林の保全を地道に行ってきたことを忘れてはならない。 海洋のコネクティビティは、産業の振興、国家の繁栄、人の生活向上に不可欠であることは既に述べたとおりである。インドネシアの経済成長に伴う貨物量の急増は、タンジュンプリオク港の容量の飽和状態を引き起こしており、その改善が不可欠である。読者の中には、両国がパティンバン新港を共同で建設しており、昨年12月にはジョコ大統領の出席を得て、ソフトオープンを迎えたことを御存知の方も多いだろう。完成した新港から、海上を通じて、自動車を始めとしてインドネシアで製造された製品が世界各地に運ばれていくのである。 ただし、水産物や遺伝資源のような海洋の恵みを享受するためにも、海洋の連結性を活用するためにも、その前提として、海洋が安全であり、法の支配の下にあることが必要である。 海洋資源の安定的な活用、海洋の安全確保のため、日本とインドネシアの間の具体的な協力として、IUU(違法・無報告・無規制)漁業取締のための2隻の漁業取締船、及び海上安全のための3隻の巡視船が供与された。また、海洋水産省が推進する離島統合海洋水産センターに対する支援(サバン、ナツナ、モロタイ、サウムラキ、モア、ビアク)は、中長期的な海洋資源の持続可能な利用に資するのみならず、離島での漁業振興を通じ、IUU漁業の早期発見にも貢献することだろう。 私が外交官を志して国際法を勉強した際、インドネシアの国際法学者が群島国家理論を提唱したことを知った。また、我が国の海上保安庁と政策研究大学院大学(GRIPS)が連携して実施する海上保安政策プログラムに対するインドネシア人の強い関心、日本の海上自衛隊とインドネシア海軍との北ナツナ海での共同訓練、及び、本年3月に結実した両国の防衛装備品・技術移転協定を見ると、インドネシア人の海洋における法の支配への確信は、日本人と変わらないことを実感する。 日本は、「自由で開かれたインドネシア太平洋(FOIP)」を掲げ、インドネシアはASEANで指導力を発揮し、「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」を推進している。この2つの構想は、本質的な原則を共有しており、共に海洋が法の支配に基づき、万人に開かれたものであることを強調している。このことから、両国は、多国間外交において、海洋分野でも連携を更に深化できることは明確である。インドネシアは、来年はG20議長国を務め、再来年にはASEAN議長国となる予定である。海洋に関して共通の価値観を有し、利益を共有する両国が連携する可能性を更に広げるタイミングが来ている。 海洋は、我々に恵みを与えているが、何の努力もなしに維持できるわけではない。海洋からの恩恵を共に享受し、インド太平洋において指導力を発揮している両国が協力しない理由はない。 金杉憲治 駐インドネシア大使 >>>その他の寄稿文・挨拶 |