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在インドネシア日本国大使館
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EKB62(その2);高め合う関係


2017年6月1日



日本車両に出会う旅


    先日、ジャカルタの首都圏鉄道に乗せて頂く機会がありました。その際、久しぶりに、心底「感動する」経験をしたので、皆様にも是非聞いて頂きたいと思います。

    インドネシアの鉄道では、日本の中古の鉄道車両が数多く走っています。2016年時点で、日本からインドネシアに輸出された中古車両は、約1,000輌に及びます。今回乗せて頂いたのも、元々は南武線で走っていた車両で、注意して見てみると、ところどころに、日本語が書いてあります。

    中古車両と言いますが、決して安全に問題があるわけではありません。日本では現役で20年程度使われたものですが、引き続き整備をすれば、機能的には十分走れる車両です。ただ、日本では、整備の人件費を考えれば、新しい車両に切り替えた方がコスト的に見合うのです。一方、インドネシアの人件費を考えれば、その中古車両をちゃんと整備して走らせた方が、新車両を建造するより安くつくので、日本とインドネシアの利益が一致するのです。これは、せっかく建造された車両を最大限活用する上でも大事なことです。

ハゲタカ?


    となると、インドネシアでの車両整備が非常に重要になるわけですが、正直に言えば、つい最近までは、組織立った形での車両整備が行われていたとは言い難かったようです。

    新車両であろうが、中古車両であろうが、一定程度使えば、部品は確実に消耗します。本来は、定期点検により、消耗度をチェックし、事故につながらないようなタイミングで整備を行う、というのが原則ですが、インドネシアでは、過去、不具合を起こした段階で、チェックし部品を交換していた、というのが実情。より深刻なのは、部品を国内で調達できないものですから、結局、まだ動いている他の車両の該当部品と取り換えて対応していたということです。
    その結果、今回も案内頂いた車両整備場の一角では、部品を外されて動かせなくなった車両が死屍累々と置き去りにされていました。この状況を「ハゲタカ」と呼びます。

救世主!


    この「ハゲタカ」という言葉を教えてくれたのは、JR東日本からジャカルタの首都圏鉄道会社に派遣され、今回案内して頂いた前田さんです。前田さんは、インドネシアに多くの中古車両を提供しているJR東日本から送り込まれた「救世主」です。

    当初、日本側の車両サプライヤーは車両提供まで行い、その整備についてはインドネシア側に任せていた、というのが実情でした。その結果、先に申し上げたような状況になっていたのですが、これを深刻視したJR東日本は、2年前に前田さんを送り込んだのです。
    その成果は絶大でした。今回インドネシア側の責任者から説明を受けたところでは、車両整備場は整備され、整備プロセスは確立し、日本からの部品供給のネットワークも出来て、不具合や事故の件数は確実に減ったのです。整備場の中も見せて頂きましたが、昔は部品が散らばり、汚れたフロアーであったのが、整備項目ごとに仕事場は整理され、フロアーの一部は綺麗に色付けされています。そして、更なる「改善」を目指して、インドネシア側のイニシアティブで、新しい試みが多く進められているということでした。

    前田さんは、日本から単身で乗り込み、インドネシア語から始めて大変な努力をし、現場に溶け込むばかりでなく、長足の改善を実現されました。その過程で、お腹をこわし点滴を受けること数回など、厳しい思いをされたようです。今回伺ってみて、即座に感じたのは、完全にインドネシア側の一員になっておられるということです。どこに行っても、必ず抱き合う相手がいて、前田さんのことを皆、嬉しそうに見つめています。
    前田さん曰く、「インドネシアでは、会議でいくら良い提案をしても、物事は決して進まない。その提案を実施したら具体的にどこがどれだけ良くなるかを現場で実地に示して、皆を納得させなければ意味がない。ただ、一度納得すれば、日本でのような面倒な手続きをすっ飛ばして動くので、実現は日本よりずっと早いのです。」。まさに、現場で暮らして初めて言える言葉だと思いました。

高め合う関係


    首都圏鉄道乗車では、色々な経験をしました。駅でのホーム移動は、未だ線路上が多く、高架橋や地下通路は、つい最近整備され始めたばかりです。自動停止装置も普及していないので、未だに不注意による追突事故があるそうです。走っている途中、線路上に人がいたり、両サイドに家が迫っていたり、雑然とした個所もありました。ただ、この面では改善が急で、沿線の住居を撤去し、集合住宅の提供を始め、現在は、問題の個所はジャカルタ中で3か所まで減少しているそうです。
    その一方で、全車両冷房が効いていますし、女性用車両は先頭車輌及び最後尾車輌の2車両で、時間制限なしです。日本の鉄道会社とジャカルタ首都圏鉄道は、色々な交流があるようで、案内してくれた社長も、つい最近日本に行ったばかりと言っていました。そして、彼曰く、「日本で素晴らしいと思ったことは、何でもジャカルタに導入するつもりだ。」最近では、新宿駅で見かけた場所を取らないパイプ製のベンチを導入した、と嬉しそうに語ってくれました。

    前田さんは、このエッセイ掲載時点では、既に帰国されていますが、その後任の方が来られることも決まっています。鉄道を巡る日本とインドネシアの「高めあう関係」はこれからも続いていきます。私は、これはとても素晴らしいことだと思います。